小児の呼吸器感染症 RSウイルスについて

2023年11月01日

利根中央病院
小児科 医師
江田 陽一

日ごとに寒さも増し、身にしみる季節となりました。冬にはさまざまな感染症が流行しやすく、家族内や集団保育で感染が広がってしまうこともしばしばみられます。

今回、小児の呼吸器感染症の中でも特に注意が必要なRSウイルス(Respiratory syncytial virus)をテーマとして、その特徴や流行状況、予防や自宅できる感染対策などについてお話しします。

RSウイルスとは

RSウイルスは小児によく見られる呼吸器感染症の主要な原因です。このウイルスは風邪症状を引き起こしますが、他のウイルスとの大きな違いは「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」といった喘息様気管支炎(喘息のような症状を起こす空気の通り道の炎症)を起こすことです。

感染は主に秋から冬にかけて増加し、インフルエンザ前に流行する冬の風邪の代表でしたが、最近では毎年のように流行状況が変化しています(最近の流行状況の項を参照)。

RSウイルスは感染力が非常に高く、空気中の飛沫を介して広がります。特に乳幼児や早産児、免疫力が低い子どもたちは重症化する場合もあります。RSウイルス感染に対する早期の診断と適切な治療が大切です。

症状

RSウイルス感染症は、主に小児に影響を及ぼす呼吸器感染症で、以下の主な症状を引き起こします。4-5日の潜伏期間を経て発症し、症状には鼻水、鼻づまり、くしゃみ、咳、発熱があります。また、炎症が波及することで、一部の患者では肺炎や細気管支炎に進展したり、中耳炎や喉頭炎を合併したりすることもあります。特に1歳未満の乳幼児では重症化しやすいため、注意が必要です。

流行状況

RSウイルス感染症は近年、夏から増加傾向となり秋にピークがみられるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下の2020年は報告数の減少がみられましたが、2021年はむしろ報告数の増加と春から初夏にかけて増加するなど例年より早いピークがみられました。今年は2021年に似て早いピークがみられましたが今後、冬季に報告数が増加する可能性もあります。RSウイルス感染症の今後の発生動向について、さらなる注意が必要です。(図1)

診断と治療

RSウイルス感染症の診断は主に臨床症状と病歴に基づいて行われますが、鼻咽頭ぬぐい液による抗原検査を行うことができます。特に重症の場合には血液検査と動脈血ガス分析などの検査が行われ、酸素飽和度や二酸化炭素濃度を確認します。治療は対症療法が主体で、患者の症状に合わせて行われます。重症例では、入院が必要となり、酸素療法や点滴を通じて輸液が行われることがあります。近年においてC型慢性肝炎の治療薬として用いられるリバビリンが米国でRSウイルスの治療薬として認可されましたが、現在日本で使用できるRSウイルスに対する治療薬はありません。

高リスクとシナジス投与

1歳未満の乳幼児では重症化しやすいのですが、より重症化しやすい高リスクが分かっています。早産児、免疫不全の合併、先天性心疾患や肺疾患の合併、ダウン症候群の赤ちゃんが挙げられます。これらの子どもたちの予防策の一つがシナジスです。前述した高リスクの赤ちゃんたちにお勧めされ、投与することで症状の重症化や入院のリスクが軽減され、感染からの回復がスムーズに進むことが期待されます。また、予防のためのワクチン開発が今も続けられていると聞いておりますが、依然として研究中です。

自宅でできる感染予防

定期的な手洗いは感染予防の鍵です。特に外出から帰宅後、食事前、トイレ使用後に手洗いを徹底しましょう。手指の石鹸やハンドソープを使用することも効果的です。感染を防ぐためにマスクの着用はおすすめされます。また症状がある場合は感染拡大を防ぐため、なるべく自宅で安静にするように心がけましょう。

実は子どもだけではない高齢者の感染症

これまで小児科医として「RSウイルス感染症を子どもの病気」と紹介してきましたが、アメリカでは毎年6,000–10,000人の高齢者がRSウイルスで死亡しています。入院した場合の死亡率は5%程度ですが、肺気腫(COPD)、喘息、心不全、脳梗塞、脳出血、糖尿病、慢性腎臓病などの持病があると、死亡率は高くなります。日本では高齢者に積極的な検査をされておらず、正確な統計はありませんが、約63,000人の入院と約4,500人の院内死亡が推定されるという報告があります。そして、2023年8月に60歳以上の高齢者向けのRSウイルスワクチン(アレックスビー筋注用)が日本でも承認されました。現時点で発表されているデータによると、RSウイルスワクチンの接種で高齢者のRSウイルスでの入院や重症化が4分の1に減ることが分かっています。

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