乳房チェックの新しい考え方と検診のススメ

2023年10月01日

利根中央病院
病院長
関原 正夫

現在、乳がんは女性のなかで最も多いがんです。なるべく早期に発見して治療を行うことが必要で、そのために「ブレスト・アウェアネス」という考え方が推進されており、同時に検診受診も重要な要素となっています。

乳がんの疫学(統計)

2019年の全国調査によると、がんで亡くなった女性は約15万人で、このうち乳がんで亡くなった方は約1万5千人であり、大腸、肺、膵臓、胃に次いで第5位でした。年齢別に見ると、60歳以上で増加傾向がみられ高齢になるほど傾向が大きくなっています。一方、40~54歳においては、2000年頃より減少傾向がみられ、全体の乳がん死亡の増加が緩やかになった一因とされています。

また、2018年の調査では1年間に約42万人の女性の方が「がん」と診断されていますが、その中で乳がんは約9万4千人を占めており女性の中で最も多いがんとなっています。全体として1985~2010年までは増加がみられていましたが、2010~2015年は横ばい傾向となっています。年齢別にみると45歳までは乳がんが発見される方が急増し、45~69歳の間にピークがあり、それ以降は横ばいないしは緩やかな減少傾向を示しています。女性の中で乳がんが一番多いことを考えると、早期発見と治療が必要なことは言うまでもありません。

ブレスト・アウェアネス

これまで、ご自身が行う乳房チェックについては「自己触診」という用語が広く用いられてきました。自己触診とは「探す、検査する、診断する」という意味合いがあり、乳房の触り方等の手技の習得が主体であるため、一般女性には荷が重く面倒に思われ正確に実践しにくいと考えられます。

そこで新たな考え方として、女性自身が自分の乳房の状態に関心をもちながら生活する健康教育として「ブレスト・アウェアネス」という考え方が進められています。「ブレスト・アウェアネス」とは、乳房の自己触診ではありません。乳房を意識して、乳房の変化に気を付けて生活することです。普段の乳房と変わりがないかという気持ちで気軽に「乳房チェック」をする生活習慣を指し、4つの項目があります。

①自身の乳房の状態を知る(セルフチェック)

入浴や着替えのときなどに、気軽な気持ちで自身の乳房の状態を見て・触って・感じることによりご自身の乳房を自覚することです。

②乳房の変化に気をつける

乳房の変化として注目してほしいポイントとして、腫瘤(しこり)の自覚、乳頭からの分泌物(特に血性)、乳頭や乳輪部のただれ、乳房の皮膚の凹みや引きつれ、乳房痛があります。

③変化に気づいたらすぐ受診する

気がついた乳房の変化がすべて乳がんの症状ではありませんが、乳がんの可能性があります。変化に気付いたら次回の検診を待ったり、自己判断で先延ばしせずに病院を受診してください。適切な治療を早い段階で行えば、乳がんが治る可能性も高くなります。そして、

④40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける

セルフチェックさえしていれば検診を受けなくてもよいというものではありません。日頃から自分の乳房に関心をもち、40歳以降では定期的な検診を受けることが重要です。

検診

乳がん検診の目的は乳がんで亡くなる人を減らすこと(死亡率減少効果)ですが、現在、統計上この乳がん死亡率減少効果が明らかな検査方法は、検診マンモグラフィだけです。日本人女性の乳がんの好発年齢が45~49歳と60~64歳ですので、日本では40歳以上の女性に対して検診マンモグラフィが推奨されています。

乳がん検診は、市町村が提供する「住民検診」と、それ以外に自費で受診する「人間ドック、職域検診など」に大別されます。どんなに優れた検査でも100%乳がんを発見できるわけではありません。乳がん検診で精密検査の必要がないと判定された場合でも、乳房の変化に気づいた場合には、放置せずに速やかに受診することが重要です。

おわりに

当院においても乳がんと診断された方の中には、乳がん検診を受けていないあるいは何年も受けていない方が少なからずおり、がんも進行した状態であることが多い傾向にあります。是非検診を受けていただき、また変化を感じたら病院で受診していただくことが大事です。

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