2022年11月07日
利根中央病院
循環器内科科長
近藤誠
生活習慣病による心筋梗塞や狭心症の増加と、高齢化による高血圧や弁膜症の増加が原因となって、心不全患者が急増しています。その罹患率は高齢になるほど高く、高齢化が進む我が国では患者数の増加が続くと予想されていて、こうした状況を「心不全パンデミック」と呼んでいます。そして心不全は一度発症すると根治は期待できず、入退院を繰り返しながら生活の質が低下し予後が悪い疾患だと言われています。
心不全のステージ分類
心不全は、心不全が発症する前をステージA/B、心不全発症後をステージC/Dと分類しています。(図1) ステージAは心臓に異常はないが、高血圧や糖尿病、動脈硬化疾患などが存在し今後心臓に負荷がかかると予想される段階で、ステージBは狭心症や弁膜症、左室肥大や心機能低下などの異常が生じているが、まだ心不全を発症していないという段階です。
そして通常「心不全」と呼ばれる段階がステージC/Dです。ステージCは呼吸困難や息切れ、浮腫などの心不全による臨床症状が出現してきた状態で、ステージDは治療抵抗性心不全ステージと言われ、心不全の改善増悪を繰り返し、身体機能が増悪していく段階です。そしてその後は徐々に心不全の終末期を迎えることになります。
利根沼田地域での心不全診療
利根沼田地域では都市部と比較し超高齢化が進んでいるため、都市部よりも早く心不全パンデミックが生じると考えられます。また利根沼田地域では、ステージC/Dに対する心不全診療を行う医療機関が少ないため、心不全をステージA/Bの段階で早期に発見し、発症を予防することに力を入れていく必要があると考えています。そして心不全発症後には限られた医療資源を最大限活用し、地域で協力しながら終末期まで対応可能な環境を作っていく必要性を感じています。
心不全早期発見ダイレクト検査の紹介
心不全発症前のステージA/Bの患者様は、心不全症状がないため、地域の診療所や、当院では総合診療科、糖尿病内科、腎臓内科、脳外科などの各専門科の先生に通院していると考えられます。利根中央病院循環器内科では、そういった患者様の中から心不全発症リスクの高い患者様を早期発見していくために、心不全を早期発見するためのチェックシートを作成しました。(図2) チェックシートに該当する患者様がいた場合には、利根中央病院で容易に心臓の検査を行えるような仕組みを作っています。検査の結果、専門医がさらなる精査が必要と判断した場合には、当院で検査を追加します。そして高度な検査や治療が必要な場合には、適切な高次医療機関へ紹介することにしています。また検査の結果、経過観察のみでよい場合には、各かかりつけ医に報告し、心不全発症リスクの高い疾患の治療を継続してもらいます。
高血圧、糖尿病、動脈硬化疾患や、狭心症、弁膜症、左室肥大、心機能低下など、心不全発症リスクの高い疾患を抱えている患者様は、是非一度かかりつけの先生にご相談下さい。
心不全発症後の診療
心不全はステージCになると、労作時や夜間安静時の呼吸困難や浮腫の増悪、動悸や倦怠感、食思不振などの症状で発症します。そして心不全を発症した場合には、入院での安静、酸素投与、点滴治療、心不全に対する標準的薬物治療の導入が必要です。そして心不全の原因を調べるために超音波検査や心臓カテーテル検査などを行います。その結果、狭心症や弁膜症などの心不全の原因や増悪因子となり得る疾患が発見された場合には、カテーテル治療や外科的治療などを検討する必要があります。また積極的な治療以外にも、減塩食の徹底、服薬の徹底、過負荷を避けるなどの生活習慣の是正が必要で、心機能の低下や身体機能の低下を改善する目的で心臓リハビリも必要になります。さらに日常生活動作の低下や、一人暮らしなどの生活環境が心不全の増悪因子になることもあるため、介護調整や生活環境の整備も必要になります。そして、心不全は増悪、改善を繰り返すたびに身体機能が低下するため、再発予防が重要とされています。したがって退院後も、外来診療や外来心臓リハビリを継続していく必要があります。
最終的に治療抵抗性心不全ステージと言われるステージDとなった場合には、集中治療が必要となり、場合によってはより高次の医療機関へ搬送を行い可能な限りの集中治療を行うことを検討します。その後、心不全の終末期となった時には、従来治療よりも緩和ケアを検討し、療養型病院への転院や、介護保険を利用しての施設入所や、在宅看取りを目指した訪問診療、訪問看護などの調整を行います。
心臓リハビリチームの紹介
当院では、心不全発症後は心不全の治療として心臓リハビリチームによる包括的な介入を行っています。心臓リハビリチームでは、循環器内科医師の診療をサポートする目的で、病棟、外来の看護師は心不全療養指導士を取得し(5人在籍)、再発や重症化予防のための患者教育に取り組み、理学療法士は心臓リハビリ指導士を取得し(4人在籍)、運動療法による治療介入を行っています。その他、退院後の生活改善のためソーシャルワーカーが地域のケアマネージャーと連携して生活環境の調整を行い、服薬については薬剤師が服薬指導、減塩食などの食事療法については管理栄養士が栄養指導をしています。
地域連携の構築を目指す取り組み
ステージA/Bにおける心疾患の予防、早期発見について、またステージCにおける退院後の管理、ステージDの終末期における緩和医療や看取りの管理などについて、心不全診療には、地域の診療所や療養型病院、介護老人保健施設、介護福祉施設、ケアマネージャーなどと連携していくことが重要だと考えています。今後は、地域において心不全診療に関わる各施設、各職種で情報交換、意見交換ができる仕組みの構築を目指しています。
医療関係者の方へ
当院では地域の医療機関から各種検査の予約をお受けしております。
詳しくは総合支援センターのページをご確認ください。