2021年10月01日
利根中央病院
糖尿病内科科長
荒木修
今回は生活習慣病の1つである糖尿病について2ヶ月にわたって連載します。
糖尿病とはどんな病気か?
糖尿病は血液中の糖の濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。膵臓で作られるインスリン(図1)というホルモンの分泌が悪くなったり、その効き目が不十分になることで発症します。
我が国の成人における糖尿病患者もしくはその予備軍も含めた数は2000万人(平成28年国民健康・栄養調査より)に上り、成人の約4人に1人の割合に相当します。糖尿病は1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序・疾患によるもの、および妊娠糖尿病に分類されますが、その約95%が2型糖尿病であり、遺伝的な要因に食べ過ぎや運動不足などの生活習慣による環境的な要因が加わることで発症します。
糖尿病の起こり始めは自覚症状がほとんどない(自分では気づきにくい)ので、健診を受けて早期に発見することが重要ですが、「疲れやすい、急にやせたなどで病院にかかってみたら実は糖尿病だった」、「治療が遅れたために、すでに病気(合併症)がかなり進んでしまっていた」、「心筋梗塞で入院したら糖尿病だったことがわかった」などというように、糖尿病によるさまざまな合併症が起こって進行してしまってから、はじめて糖尿病と診断されることも多くあります。
合併症と治療の目標
糖尿病にはさまざまな合併症がありますが、大きく分けて、緊急治療を必要とする意識障害がおこってくるような急性合併症(糖尿病性昏睡)と、糖尿病の悪い状態が長く続くことで起こってくる慢性合併症があります。糖尿病治療の目標は血糖、血圧、脂質の良好なコントロールと適正体重の維持、禁煙の遵守により、糖尿病合併症の発症、進展を阻止し、健康な人と変わらない人生を送れるようにすることです。
急性合併症(糖尿病性昏睡)
糖尿病の患者様に起こる急性合併症(糖尿病性昏睡)には、「糖尿病性ケトアシドーシス」と「高浸透圧高血糖状態」の2種類があります。どちらも生命にかかわる危険な状態です。
糖尿病性ケトアシドーシス
インスリンの作用が極端に不足した状態では、エネルギー源として血糖(ブドウ糖)が利用できなくなり、体の脂肪を分解してエネルギーを取り出す様になります。脂肪の分解の最後に「ケトン体」という物質ができますが、このケトン体が著しく増えて血液が酸性に傾き、ケトアシド-シスと呼ばれる状態になります。1型糖尿病の発症時やインスリン注射を中断したとき、あるいは感染症や外傷などによって極端にインスリンの必要性が増加したときに起こりますが、2型糖尿病でも感染症や外傷などの強いストレスがあったとき、また清涼飲料水を多量に飲んだとき(清涼飲料水ケトーシス)などに発症します。口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感などの糖尿病に典型的な症状が急激に起こり、さらに悪化すると、呼吸困難、速くて深い呼吸(クスマウル大呼吸と呼びます)、あるいは悪心、嘔吐、腹痛、意識障害などが起こります。
高浸透圧高血糖状態
著しい高血糖(血糖値600〜1500mg /dL)と飲水量不足によって脱水がひどくなり、血液が極端に濃縮して起こります。2型糖尿病の高齢者に多くみられ、感染症、脳卒中、副腎皮質ステロイド薬および利尿薬の頻用、高カロリー輸液などが原因となります。意識障害にけいれんや震えなどの症状を伴うことがあります。
一刻も早く入院のうえ、大量の輸液とインスリンの投与が必要です。疑わしい場合は主治医に連絡して、できるだけ早く診察を受けるようにしてください。
慢性合併症
糖尿病の悪い状態が長く続くと、全身にさまざまな合併症が起こってきます(図2)。主な慢性合併症には以下の3種類があります。
- 糖尿病があるとより進行しやすい太い血管の合併症(大血管症):動脈硬化による脳卒中、心筋梗塞や足病変
- 糖尿病に特徴的な細い血管の合併症(細小血管症):網膜症、腎症、神経障害
- その他、かかりやすく治りにくい感染症や認知症など
太い血管の合併症(動脈硬化)とは?
動脈硬化とは動脈の壁のしなやかさがなくなり、また内部にさまざまなものが沈着するなどで血管が詰まりやすくなった状態をいいます。動脈硬化は年をとれば程度の差はあれ誰にでも起こりますが、糖尿病に加えて血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多い、もしくは善玉(HDL)コレステロールが少ないなどの脂質異常症があるとより早く進行します。これら以外の危険因子には、高血圧、喫煙、肥満、加齢などがあり、これらがいくつも重なると動脈硬化はより進行していきます。動脈硬化が進行すると、脳の動脈が詰まる脳梗塞(脳卒中のひとつ)、心臓の筋肉に栄養や酸素を送る冠動脈の血流が悪くなる狭心症や冠動脈が詰まる心筋梗塞、足の動脈が詰まる閉塞性動脈硬化症といった、生命を脅かし、また日常生活の支障となる重篤な病気を引き起こします。動脈硬化を予防するためには、血液検査に加え、心電図や動脈硬化評価検査などを定期的に受けて状態を把握するとともに、血糖値以外にも血圧、血中脂質を適正に保つことが大切です。また、禁煙や肥満と運動不足の解消も動脈硬化の進行予防にはとても大切です。(次号に続く)