歯ぐきのSOSを見逃すな!~出血は炎症のサイン~

2021年06月01日

利根歯科診療所
歯科衛生士
中山 恵理加

みなさんは怪我をして出血したらどうしますか?
おそらくきれいにして手当てをした後は治るまでそっとしておくと思います。
では歯を磨いて血が出たときはどうでしょう? 血が出るのは恐いし磨かずにそっとしておこう、そうしていませんか? ところが磨いた時の出血はそのままにしておくと取り返しのつかないことになってしまうのです。
歯ぐきに炎症が起こるメカニズムを理解し、健康な歯ぐきを維持していきましょう。

歯ぐきの炎症

人のお口の中には数千億の細菌が存在します。細菌たちは歯の表面にどんどんくっつき、一つの塊となります(以降バイキンと呼ぶ)。歯の表面に付いたバイキンは毒を出し、これによりまわりの歯ぐきが病気になります。これを炎症といいます。
健康な歯ぐきは歯とぴったりくっついていますが、炎症が起きると歯と歯ぐきの間に谷間のような隙間ができます。この隙間を「歯周ポケット」と言います。
ポケット内の歯の表面にはバイキンがべったりくっついており、炎症が起きた歯ぐきの血管は破壊され、出血しやすい状態になります(図1)。
血液にはバイキンの大好物である鉄とタンパク質が含まれており、バイキンはこれらを栄養にして毒を作り出します。そして病原性を高めどんどん歯周病を進行させ、気づいた時には手遅れの状態になってしまいます。
「火の無いところに煙は立たぬ」ならず「バイキンのいない所に歯ぐきの出血はない」のです。出血=歯ぐきの炎症のサイン、これを見過ごさずきちんと対処することで健康な歯ぐきに戻すことが可能です。

図1
図1

歯ぐきの炎症は全身に影響する

お口の中で増えた細菌は主に二つの方法で体内へと侵入します。ひとつは唾液と一緒に飲み込まれる形、もうひとつは炎症している歯ぐきの壊れた血管から全身に影響が出ます。
以前から、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせたり(糖尿病)、早産・低体重児出産・肥満・心筋梗塞・脳梗塞にも関与していることが言われてきました。そして最近ではアルツハイマー型認知症患者の脳から歯周病菌が発見されたことで、認知症にも影響していると話題になっています。
現在も様々な研究が進められていますが、歯周病と全身疾患の相互関係は決して無視できない問題となっています(図2)。

図2
図2

セルフケアと定期検診が何よりも大切

ではどうすればよいのでしょうか? 答えは簡単! 歯を磨いてバイキンを取り除けばよいのです。
炎症している状態ではもちろん出血を伴います。ですが痛みがなければその出血は気にせず、きちんと歯の根元に歯ブラシを当て丁寧に磨くことをやめないでください。
バイキンは時間が経過するにつれどんどん病原性が高くなり除去しにくくなり、3日経つと人体に有害な毒性物質が放出され、歯ぐきや血管に激しい炎症を引き起こします。そのため1日1回だけ、しかも短時間のブラッシングではとても追いつかず取り除けません。
特に磨き残しやすいのは歯と歯の間ですので、歯ブラシの毛先や、デンタルフロス、歯間ブラシを使って丁寧にケアすることが必要です。また、歯間ブラシはサイズがあり、各個人に合ったものを選択することが重要です。
シリコンゴム製よりもナイロン毛製の方が除去効果が高くお勧めします(図3)。

図3
図3

歯周病は誰もが持っている常在菌による感染症であり、抗生物質や抗菌剤でも排除できないため完治することはありません。治ったように見えてもすぐに炎症が再発するリスクが存在し続けます。
もしあなたが数日磨くのをサボってしまったとしても、バイキンも一緒になってサボってはくれずその間も働き続けます。1回だけ頑張って磨いてもダメなんです。
毎日バイキンと闘わなければ健康な歯ぐきは手に入れられないのです。「毎日コツコツ」です。
また、バイキンを100%磨いて落とすことは専門家でも難しくなかなかできません。そのため歯科医院で、磨けているか・歯ぐきの炎症が起きている所がないかのチェック、不足している所の専門的なクリーニングを継続して受けることもお口の健康を維持するうえで非常に大切です。さあ、みなさんも毎日のケアを見直し「健口」を目指してみませんか?

PAGE TOP