耳鼻咽喉科の癌

2021年05月01日

利根中央病院
耳鼻咽喉科医師
井田 翔太

今回は、あまり聞き慣れないかもしれませんが、「耳鼻咽喉科領域の癌」について紹介させていただきたいと思います。耳鼻咽喉科では、口腔内や咽頭・喉頭など、頭頸部に発生する癌(以後、頭頸部癌)の診断や治療を担当しています。頭頸部癌は全ての癌のうち約5%を占めるとされ、比較的頻度の少ない病気です。しかしながら頭頸部は呼吸や食事、さらに音声や視覚・聴覚など人間が生きていく上で必要な機能が多く集まっている場所であり、この部分に癌ができると生活の質(QOL)が低下してしまいます。そのため、早期発見・診断とともに、適切な治療が求められます。以下、代表的な頭頸部癌について述べていきます。

1 口腔癌(こうくうがん)
口腔癌は、口の中に発生する癌です。最も有名なのは舌癌で、他にも歯肉や頬粘膜に癌が発生することもあります。潰瘍状を呈してくることもあり、初期は口内炎との区別が難しいです。なかなか治らない口内炎があるときは、一度当科での診察をお勧めします。
図1:右舌縁に発生した舌癌
図1:右舌縁に発生した舌癌
2 咽頭癌(いんとうがん)
咽頭に発生する癌です。咽頭は鼻の奥(上咽頭)〜口の奥(中咽頭)〜気管・食道の分岐部(下咽頭)と広くつながっていて、それぞれに癌が発生する可能性があります。中咽頭癌・下咽頭癌では長年の喫煙・飲酒が発癌のリスクとなります。症状としては咽頭痛や嚥下時の違和感、難治性の中耳炎、進行すると声枯れや頸部のしこり(リンパ節転移)などが特徴的です。最近では上咽頭癌や中咽頭癌の発癌にウィルスの感染が関与している場合があることが明らかになっており、タバコを吸わない人でも発生する可能性が分かってきました。
図2 左口蓋扁桃に発生した中咽頭癌
図2 左口蓋扁桃に発生した中咽頭癌
3 喉頭癌(こうとうがん)
気管の入り口に、声帯という声を出すための臓器がありますが、喉頭癌はその声帯の周囲に発生する癌です。従って多くの場合は声枯れによって気がつきますが、風邪と勘違いして診断が遅れたり、声帯から少し離れて発生した場合は症状に乏しく、進行した状態で見つかることもあります。進行するとどんどん声が出しにくくなり、更には息の通り道が狭くなり呼吸が苦しくなる危険があります。早期発見ができれば抗癌剤や放射線で治療することで音声を温存可能ですが、局所進行例では手術で声帯を含め摘出する必要があり、失声となってしまいます。発癌リスクはやはり喫煙ですので、長年タバコを吸っていて、なかなか声枯れが治らない場合はぜひ一度受診をお勧めします。
図3 両側の声帯に発生した喉頭癌
図3 両側の声帯に発生した喉頭癌
4 その他の頭頸部癌
頭頸部にはその他にも鼻・副鼻腔に出来る癌や、外耳道(耳の穴)に出来る癌など、多くの種類の癌があるのが特徴です。
頭頸部癌の多くは、進行すると首のリンパ節(頸部リンパ節)に転移を来します。そのため、原因不明の首のしこりがある方は、せひ耳鼻咽喉科で原因の検索をお勧めします。

以上、簡単ですが耳鼻咽喉科領域の癌についてお話しました。聞き慣れない病気の名前が多く、難しく思われることもあるかと思います。長年お酒やタバコを楽しまれている方は特に上記のような病気のリスクが高いと言えます。気になる症状がある場合は、せひ一度ご相談頂ければ幸いです。

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