2014年05月01日
利根中央病院
病理診断科 医師
大野順弘
昨年二月の保険適応の拡大により、「内視鏡検査での胃炎の確認」を条件に、ピロリ菌感染のある慢性胃炎の患者も、除菌治療を保険で受けられるようになりました。胃がんの主な原因はピロリ菌による慢性胃炎であり、除菌治療による胃がん予防が正式に認められたことになります。除菌により、中高年では胃がんのリスクを1/3 に、中学生や高校生であればほぼゼロにできるといわれています。
現在、日本人の死因の三割を占めるがんですが、その中でも胃がんは肺がんに次ぐ位置にあり、年間五万人が死亡しており、その意味でも確実な効果の望めるピロリ菌の除菌による胃がんの予防は大きな意義を持っています。
長野県の学校検診
松本市のある高校で、二年生を対象とした尿検査によるピロリ菌の学校検診が、2007年から実施されています。2012 年までの六年間に2641人が検査を受けており、その結果が、信州大学の消化器内科から報告されています。
この学校検診では、尿検査で116 人(4.4%)が陽性となり、60 人が内視鏡による二次検診を受けました。そのうち、感染が確認された49 人が除菌治療を行い、治療後の検査を受けた46 人は一回の治療で除菌に成功しています。
沼田中学校での検診の試行
昨年、沼田中学校の生徒さん、職員、保護者の皆様、群馬大学の小児科医師の協力をいただいて、ピロリ菌の学校検診を試験的に実施しました。
三年生 125 人全員が検査に同意してくださり、昨年五月の学校尿検査の際に、ピロリ菌の尿中抗体検査を受けていただきました。七名(5.6%)が陽性という結果となり、陽性の方には確認のための便中抗原検査の容器を結果に添えて自宅へ郵送し、陰性の方には結果のみを郵送して連絡しました。一名は便中抗原検査が陰性となり、尿検査の偽陽性であったことがわかりました。その後、四名が小児科を受診して治療の説明を受けてくださり、三名は群馬大学小児科での内視鏡検査の後、保険での除菌治療を受けていただきました。残る一名は内視鏡検査を希望されず、自費での除菌治療を当院で受けていただきました。
今年度は全学年で検査を実施
昨年度は多忙な三年生を対象としたこと、便中抗原検査による確認に時間を要したことから、公費で治療のできる瀬戸際の春休みに初回の治療を受けていただくことになりました。その反省から、今年度は、便中抗原検査による確認は省略し、尿中抗体検査が陽性の場合は、すぐに小児外来の受診を電話で予約していただき、夏休み中に治療を受けられるよう変更します。
また、来年度からは、ピロリ菌の検査を試行する対象の学年を時間的に余裕のある一年生に変更するため、今年度に限って、全学年で検査を行うことを予定しています。
保護者の世代では三割が感染
中学生でのピロリ菌検査の意義をお知らせするとともに、がん年齢に入りつつある保護者の方にピロリ菌の検査と(検査が陽性の場合の)除菌治療を受けていただくことが一層重要であることをお知らせするため、今年度は保護者会に参加して、ピロリ菌検診の試行についての補足説明をさせていただく予定にしています。40才代の方が多いと思われる保護者の世代の感染率は30%前後であり、ピロリ菌の検査と除菌治療による胃がんの予防が重要となります。
衛生環境が改善された現在では、ピロリ菌の感染は家庭内での感染が多く、親が感染している場合に子に感染する確率は10%とされています。子がピロリ菌に感染している場合は両親のいずれかに感染が見られる場合が多いのですが、子に感染が無いことが、親に感染が無いことを示すわけでありません。お子さんに感染が無い場合でも、これまでに検査を受けたことが無い保護者の方はピロリ菌の検査を受けることが必要です。