飲酒と肝臓病

2012年12月01日

利根中央病院
内科医師
萩原 聡

年末年始が近くなり、アルコールを飲む機会が増える季節です。「酒は百薬の長」という言葉があります。アルコールは緊張をほぐしたり気分を良くしたりするので、適度に飲む酒は薬にも勝るという意味ですが、あくまで「適量ならば」と条件を付けて解釈すべきです。『徒然草』にも「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそおれ」とあり、必ずしも飲酒は手放しで推奨されるべきでなく、病気の原因になることもあります。
アルコールが原因となる病気はいくつかありますが、今回は肝臓との関わりの話をします。

肝臓によるアルコール分解

体内に吸収されたアルコールは肝臓へ運ばれます。そこでアセトアルデヒドと水素に分解され、さらにアセトアルデヒドは酢酸と水素に分解されて最終的に炭酸ガスと水になって体外へ排出されます。アセトアルデヒドが血液中に増えると酔っぱらった状態になります。このアセトアルデヒドを分解する酵素が多いか少ないかは、性別差、個人差があり、アルコールに強いか弱いかを決めています。

アルコールによる肝臓病

アルコールが体内に入ってくると、肝臓の中では一生懸命にこの分解の作業を行います。いつもは余剰能力のある肝臓ですが、連日たくさんのお酒を飲むと、休む暇がなく疲れてしまいます。また、アルコールの飲み過ぎにより肝臓の処理能力を超えてしまった場合は、肝臓内に中性脂肪がたまってしまいます。これがアルコール性脂肪肝です。
肝臓に脂肪がたまってくると、肝臓そのものの機能が果たせなくなってきます。それにもかかわらず、同じようにお酒を飲み続けると肝細胞が線維状(アルコール性肝線維症)になり、更に飲み続けると、肝臓が硬くなってしまうアルコール性肝硬変になります。肝硬変が進行すると黄疸、腹水、肝性脳症、食道胃静脈瘤等の様々な症状が出現し、生命の維持が困難となります。また、肝硬変になると肝癌の合併の危険が高くなります。
慢性的な経過だけではなく、大量飲酒をきっかけに短期間に急性肝炎(アルコール性肝炎)、肝不全を起こすこともあります。こちらも重篤化すると命の危険があります。

注意すべき検査項目

肝臓は「沈黙の臓器」といわれており、肝臓の病気は自覚症状があらわれにくいので、定期検診などで発見されることが多いのです。
γ-GTP、AST(GOT)、ALT(GPT)が高い方は注意が必要です。γ-GTP、AST(GOT)、ALT(GPT)は肝臓の細胞が壊れて血液中に出てくる酵素です。これらの数値が高いほど肝障害の程度は大きく、長い期間、高い状態が続くと肝臓にダメージが蓄積し肝硬変になる可能性があります。γ-GTP高値、AST(GOT)>ALT(GPT)がアルコール性肝障害の方の特徴です。アルコール性肝障害の初期段階では禁酒や食事に気を付けるだけで肝臓を正常に戻すことができます。肝機能障害に加えて血小板、アルブミン値が正常値より低い方は肝臓が肝硬変になっている可能性があります。肝硬変になると禁酒をしただけでは硬くなった肝臓を元に戻すことはできません。先に話した様々な合併症の危険もあるため、一度内科受診することをお勧めします。
定期検診でγ-GTP値などが高めな人は、毎日の飲酒をやめ、週に二日は休肝日を作る、一回の飲酒量を減らすなど、肝臓のオーバーワークを助けてあげましょう。AST(GOT)、ALT(GPT)の高値が持続している方、肝硬変になってしまった方は断酒が必要になります。

お酒とのつきあい方

肝臓病に関連して少々怖い話も含めてアルコールの弊害の話をしました。とはいえ私も、ほぼ毎日飲酒をします。一日にビール350ml程度ですが。お酒は強いほうではないのですが、ビール好きで飲むと体と頭の緊張がほぐれ、一日の疲れがとれる気がします。宴会の席でも、普段は話せないような率直な会話ができる等、アルコールは人間関係を円滑にする潤滑油のような役割をします。
「勤労は日々を豊かにし、酒は日曜日を幸福にする」フランスの詩人ボードレールの言葉です。あくまで飲酒は人生のスパイスであり、お酒で人生を狂わせぬよう、ほどほどに付き合いたいものです。


(図表:秋山一男監修「ぜんそくミニ辞典」から)

PAGE TOP